【大分・宇佐市】提灯づくりの職人たち

降りた駅のホームから見える山の上には、「USA」という白い文字の看板が見えた。

アメリカ合衆国ではない。

ここは日本。大分県の宇佐(うさ)だ。

 

MADE IN USA(メイド・イン・宇佐)」

株式会社宇佐ランタンの会長・谷川忠洋さんから頂いた名刺には、小さな提灯の絵が描かれていた。その提灯マークの中央に「USA」と記されている。

宇佐ランタンは、地域の夏祭りや居酒屋の入り口などでよく見かけるビニール提灯を製造している。提灯づくりを担っている社員計16名のうち、9名が障害者だ。

 

 

提灯を製造しているフロアの入り口付近には、赤や黄の華やかな提灯がつるされていた。谷川さんは、提灯の型に刷毛で糊をつけている女性社員に声を掛ける。「会長」が来ても、緊張感が走るわけではない。女性社員にとって、会長は馴染みの「おっちゃん」だ。「おっちゃん」を相手に冗談を交わしながら、糊を塗る手を動かしている。谷川さんが勤続年数を尋ねると、「17年」と返ってきた。経験年数の告げる彼女の笑顔には、自信がみなぎっていた。

 

宇佐ランタンでは、提灯づくりの工程を、①提灯の型を組み、ひごを巻く、②提灯の原型に糊を付けて、生地を貼る、③乾燥して、型を外す―の3つに分けて、分業制をとっている。社員一人ひとりは、いずれか1つの工程を自分の仕事としてこなす。それぞれの仕事が合わさって、1つの提灯が完成していく。障害者が過半数を占めると聞いていたが、仕事の様子を見るだけでは、障害のある人と、ない人の区別はつかない。社員一人ひとりが提灯づくりの職人だ。

 

宇佐ランタンは1973年に創業。

 

事業が安定するようになった1981年、谷川さんは、知人から知的障害者の雇用の相談を受けたことがきっかけに、障害者雇用を始めた。提灯づくりの作業を一つひとつ教えることから始めたが、雇用を始めた当初は、障害のある人は「できない」ということを前提に指導をしていた。試行錯誤で、課題にぶつかることも多かったという。

 

障害者雇用を始めて30年ほど経った頃、谷川さんは、ダーウィンの進化論をテーマにしたテレビ番組を見た。農作物も動物も環境に適応できるように進化し、生き残っていく。生物の進化の歴史を追う番組だった。

 

谷川さんは、思った。

 

「人の進化は、モノづくりの進化の歴史だ。人は、DNAのなかにモノをつくる能力を獲得しているのかもしれない。障害があってもモノをつくる能力を潜在的に持って生まれてきているとしたら、その能力を発揮できないのはなぜか。障害者が置かれている環境が、彼らのモノづくり能力の発揮を阻害しているのではないか…。障害のない人がやっている方法を教え込もうとしては、うまくいかないのは当然だ。障害のある人それぞれ、その人にあわせたモノづくりの能力のスイッチを入れる。そんな環境をつくろう。障害のない人のやり方を教え込むのではなく、彼らの能力を引き出すようにしてみよう」

テレビ番組から得た気づきが、転機となった。

 

宇佐ランタンに就職を希望する障害者は、年3回の体験実習をする。最初の実習は、覚えなければならないことをできるだけ少なくし、覚える工程についても、いくつかパターンを変えてやってみてもらう。本人から「この方法がやりやすい」というものが出てくるのを待つ。作業工程を「覚えさせられた」という感覚ではなく、「自分でやってみて、できた」という感覚を身に着けてもらうように心掛けている。

 

障害のある人材が入社する際には、「仕事が覚えられるかどうか」、「会社の同僚に馴染めるか」、「一日8時間労働に耐えられるか」という三重苦にぶつかりやすい。しかし、同社では、3回の実習が終わる頃には、三重苦から解放されている。モノづくりの能力を発揮できる状態で入社する。

 

谷川さんは、「人は、他人から能力を引き出してもらうことで、一人前になれる」と言う。

 

宇佐ランタンの提灯は、一人の仕事では完成しない。提灯の型を組んで、ひごを巻く人、提灯の原型に糊を付けて生地を貼る人、乾燥して型を外す人、さまざまな人が協力することで一つの提灯が出来上がる。他の社員の仕事を認めることで、自分の仕事も認められる。社員同士が互いの仕事を尊重しあうことで、職場が成り立っている。

 

宇佐ランタンが掲げる経営理念は、「創造は、主張」。

商品は、それをつくる人たち、つくる会社の主張でもある。

主張は、その商品を購入し、使う人のもとに届く。

宇佐ランタンは、提灯をつくる仕事を通じて、社会に対して主張している。

 

同社は、2013年に経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」受賞企業に選ばれている。

(取材・執筆 河原レイカ)

【長野・上田市】長屋に障害のある人の居場所とアトリエ

特定非営利活動法人リベルテ

柳町の一角にある築200年ほどの長屋をアトリエとギャラリーに
柳町の一角にある築200年ほどの長屋をアトリエとギャラリーに


長野県・上田駅から
10分ほど歩くと、瓦屋根の長屋が軒を連ねる、

城下町の面影を残す柳町があります。

 

その一角、築200年の長屋に、特定非営利活動法人(NPO法人)

リベルテが運営するアトリエ&ギャラリーがあります。

 

大きなガラスの引き戸越しに見える土間が、アート作品・グッズを

展示販売するギャラリーになっており、奥の居間では、障害のある人

が絵を描いたり、刺繍をしたり、ゆっくりくつろいで時間を過ごし

たりしています。


リベルテ理事長の武捨和貴さん
リベルテ理事長の武捨和貴さん

理事長の武捨和貴(むしゃ・かずたか)さんは、
上田市にある社会福祉法人かりがね福祉会で
8年間

経験を積んだのち、2013年4月に独立。

リベルテを設立しました。

 

「ゆったりとしたペースで人と関わる仕事がいいな

と思っていたら、なんとなく福祉に辿り着いたと

いう感じです。
福祉を目指していたというよりは、流れていったら、

回路が福祉のほうにつながっていっちゃったというか。

そういう感じですね」。

 





武捨さんは、高校卒業後、美術大学へ進学したが、

大学に入ってみると、アート作品をつくることに対して

自分自身のモチベーションが生まれず、教育や障害者支援

に関心が移ったそうです。

 

学生時代を過ごした京都から、実家のある上田市に戻ってきた時、

保健師をしている母親から、「障害のある人の作品展を地元でしてみたら?」

と声をかけられました。

 

そして、たまたま観に行ったのが、上田市にある社会福祉法人かりがね福祉会・

風の工房の展示。アウトサイダーアートなど障害のある人の創作活動

については、学生時代から知っていましたが、風の工房の展示作品を見て、

強く魅了されたといいます。

 

「こういう作品を描く人たちと一緒に過ごしてみたい」。

 

そんな思いが沸き、気が付いた時には、かりがね福祉会に就職し、障害のある人

の支援に携わっていました。

 

重度の知的障害ある人の現場で経験を積む中で、責任のある仕事を任されるよう

になりましたが、武捨さんは、その中にいた何人かの精神障害のある人たちとの

関わりの中ですぐに就労を目指すのは難しさがあると感じていました。


ケースワーカーの知人から、「医療機関に一時入院した障害のある人が、

退院した後、自分の調子や状態にあわせて時間を過ごせる場所がない」という話を聞く

ことも多かったそうです。
精神障害や広汎性発達障害のある人には、就労を目指すにしても時間をかけてゆっくり

と進める場が必要だと思うようになり、かりがね福祉会で担当していた仕事の一区切りが

ついた時、自分たちで新しい場をつくろうと決意しました。


米袋を使ってつくっている封筒(富士山、太郎山)
米袋を使ってつくっている封筒(富士山、太郎山)


リベルテは、


    福祉部門事業スタジオライト

(表現活動やアートグッズの制作など生産活動を行うアトリエ)、

    販売部門事業ギャラリーグリーン

(作品、オリジナルグッズや全国のアート系福祉施設の商品の展示販売)

    交流部門事業ワークショップ オー

小規模の研修やイベントスペースとしての貸し出し、お手伝い


の3事業を行うNPO法人として、活動しています。

 

現在は、精神障害のある人を中心に約10人が利用しており、

工房では絵を描いたり、手芸をしたり、職員とおしゃべりして過ごしています。

 

「僕たちは小さな事業所ですので、他の事業所では通うのが難しい方

の受け皿になれたらというのがあります。毎日通って仕事をしてください

という場ではなく、週1回の利用でもOKにして、緩いかたちで運営しています。


生活介護の場と、就労の場の2つに振り切れない、中間の場があったら、

障害のあるメンバーにとって居やすいんじゃないかと思っています」と武捨さん。

 

土間にあるギャラリーでは、リベルテの利用者の作品展だけでなく、

他の施設の作品展も開催。一般の人に気軽に立ち寄ってもらい、

「面白い」」作品を見てもらうことは、障害のある人と社会とを「つなぐ」

意味があると考えています。

 

他の施設の作品も展示 
他の施設の作品も展示 

 

2015年は、414日から66日まで、

 

福岡県で障害のある人の創作活動を行っている

特定非営利活動法人まるの「工房まる」展を開催。

 

今後は、福利サービスを利用する人の作品ばかりでなく、

支援する人の作品展示も行う予定です。

 

「地域の中で、障害のある人の在り方を認めていくということは、

障害のない人の多様なあり方を認めていくことにつながると

思っていて、自分の中での目標にもしています」。

 

上田の歴史のある街の一角で、

小さな福祉事業所が、存在感を示しています。


(2015年4月/取材・撮影 河原由香里)



【ソーシャルカフェ ゆるっと】

第1回ゲストスピーカー:長期入院の子どもたちのために服をつくりたい 西村直樹さん

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【京都】チョコレートで、心がほっこり 

NEW STANDARD CHOCOLATE  Kyoto by 久遠

 (ニュー スタンダード チョコレート キョウト バイ クオン)








■素材の色合いも美しい

チョコレート「京テリーヌ」


黒豆に抹茶、メロン、ピスタチオ、トマト…。


野菜や果物とチョコレートの組み合わせは、

「口に入れたら、どんな味が広がるだろう」とワクワクします。

 

京都市上京区・二条城から北へ向かうと

八百屋や生活雑貨などの小売り商店が並ぶ堀川商店街に入ります。

その一角に、東京でいえば広尾か代官山あたりにありそうな

オシャレな造りの店舗が見えてきます。

 

それが、チョコレートのお店「NEW STANDARD CHOCOLATE Kyoto by久遠」

(ニュー スタンダード チョコレート キョウト バイ クオン)です。

 

このお店の一推し商品は、「京テリーヌ」(写真(上)/税別:6980円)。

 

フランス料理のテリーヌをおもわせるチョコレートで、

黒豆、柚子などの素材の色合いを活かしており、見ているだけでも楽しくなります。

 

京テリーヌのほかにも、オレンジやキウイなどのドライフルーツとチョコレートを

組み合わせた商品も人気だそうです。

 

これらのチョコレートは、久遠チョコレート・シェフショコラティエ
(チョコレートの職人)野口和男氏のプロデュースによるもの。

 

濃厚なチョコレートは、お酒と一緒にいただいてもよさそうです。











■お店で働くスタッフ&クルー。

  写真の一番右が森本亜紀さん。


このお店は、特定非営利活動法人エクスクラメーション・スタイルが

運営しており、専門的にいうと「就労継続B型事業所」という

障がいのある方が働いているお店です。

 

現在、このチョコレートのお店でスタッフをしている森本亜紀さんは、

2年前、同法人が運営しているカフェの求人をみて応募。

 

採用の面接で、

「障害のある人と一緒に働くことになるけど、どう?」と尋ねられ、

そこで初めて、障がいのある人と働くカフェだと知ったそうです。

 

「それまで飲食の経験はしてきたけど、障がいのある人と働くことには

出会ったことがなくて。偶然、そういうことに出会ったのであれば、

やってみないとと思って。めぐりあったんなら、やってみたいと思いました」

と森本さん。

 

お店では、障がいのあるスタッフのことを「クルー」と呼んでおり、

クルーは、チョコレートの材料を刻んだり、計量したり、商品を包装する仕事を

していますが、森本さんは、実際にクルーと一緒に働いている中で、

「めっちゃ面白い」と感じています。

 

「昨日はできなかったことが、今日、できたり。

昨日、できていたところが、今日は、できてなくなったり。

えっ、何で?。昨日、それ、できてたやん?みたいなことがあります」。

 

「自分の言葉がクルーに伝わっていなかった時は、

 言葉ではなく、絵にしたらいいのか、図にしたらいいのかなど、

いろいろ考えます。クルーとの付き合いが長いスタッフにアドバイス

をもらうこともありますね」

 

日々、さまざまな変化があるクルーたちと働く仕事は、「飽きない」そうです。

 

森本さんやクルーの皆さんが、いろいろなやりとりをしながら働いている空気が、
お店の温かい雰囲気になっているのかもしれません。

 

NEW STANDARD CHOCOLATE Kyoto by久遠」は、

201412月にオープン。

 

バレンタインデーの前には、品切れになり、早めに閉店した日もありました。

「プレゼントでいただいて、美味しかったから、今度は、自分で買いに来た」

と声をかけてくださるお客さんもいたそうです。

 

京都に来たら、必ず、足を運びたくなる。

チョコレートの甘い香りで癒され、ほっこりするお店でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都市上京区堀川通出水上ル枡屋町28  

■「NEW STANDARD CHOCOLATE Kyoto by久遠」
Facebook

https://www.facebook.com/newstandardchocolate

 

(2015年3月  取材/撮影 河原由香里)